東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)149号 判決
事実及び理由
一 本願考案につき、その出願から原告主張の審決が成立し、その謄本が送達されるまでの特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び右審決の理由の要点に関する原告主張の各事実は、当事者間に争いがなく、引用例に右審決がその理由中で認定したような内容の記載があることは、原告の自認するところである。
二 そこで、本願考案が引用例との対比において進歩性を有するか否か、したがつて、これを否定した右審決の判断が誤りであるか否かについて審究する。
(本体の構成について)
1 本願考案と引用例のものとの間に、その本体の構成について原告主張の前掲四、(一)のような相違点があることは、当事者間に争いがない。
そして、引用例の前出記載によると、引用例の薬液容濾過箱12(数字は別紙第二図面に記入の数字に対応する。以下、引用例の場合について同じとする。)は、本願考案の水槽1(数字は別紙第一図面に記入の数字に対応する。以下、本願考案の場合について同じとする。)と異なり、数層重合連設されるものであり、成立に争いのない甲第三号証(引用例の明細書)によると、それは、明細書添付図面(別紙第二図面)に示されているように三層に重合されるだけでなく、必要に応じて四層にも、五層にも重合することができ、各層ごとに諸種の薬剤を各別に収容し、これを順次通過する空気中から各層においてそれぞれ異なる有害物を濾過して空気を浄化する作用を営むものであることが認められ、これに対し、前出考案の要旨によると、本願考案の水槽1は適量の水または消毒、殺菌剤液あるいは中和剤液を収容するものであり、成立に争いのない甲第二号証(本願考案の明細書)によると、それは単層から成り、空気中に含まれる有害物に適応する水又は諸種の薬液等を個別に(場合によつては、入れ替えて)又は混合して収容し、空気がこれを通過する際、有害物を濾過して空気を浄化する作用を営むものであることが認められる。しかし、前出甲第二号証によつても、空気を水又薬液等に潜らせて浄化するについて、本願考案のように、一層の水槽1を使用してこれを行なうことがそれほど特段の技術思想に基づくものとは考えられず、また引用例のもの以上の作用効果を挙げるものとも考え難いから、引用例のものにおいて、薬液容濾過箱12につき前記認定のような技術上の目的のため、これを数層重合する構成を採用したのに、本願考案があえて、これによらず、水槽1を一層にしたのは単なる選択の問題たるに止まり、この点に格別の考案的工夫を要するものということはできない。
また、前出考案の要旨によれば、本願考案は、引用例の外筐膨大部6の構成を欠き、前出甲第二号証によると、本願考案は一端を水槽内の薬液中に開口し、他端を水槽の側壁外の外気に開口した吸気管2を設け、空気をこれから吸引し、直ちに水槽内の薬液等に潜らせて浄化する構成であること(別紙第一図面参照)、これに対して、前出甲第三号証によると、引用例のものは、外筐の膨大部6を下室として、通気孔3の穿設された区劃板2で上室と区劃し、その側壁に通気孔7を穿設し、その内側に布片を挾持する金網9を設け、空気を右通気孔7から吸引し、上室内の装置において薬液に潜らせて浄化するに先立ち、金網9に挾持された布片によつて空気中の大きな塵芥を除去する構成であること(別紙第二図面参照)がそれぞれ認められるから、引用例における外筐膨大部6は、本願考案の吸気管2の外気に開口する通気孔に相当する部分を備えるとともに、空気中の大きな塵芥除去の作用をもたらす、本願考案の要旨にない装置を内蔵していることが明らかである。しかし、本願考案の構成において右装置を省略することは、これに格別困難な技術が伴うものとは到底考えられないから、当業者が必要に応じて行う設計的事項に過ぎないものといわざるをえない。
(排気部の構成について)
2 原告は、本願考案が排気室を水槽に着脱自在に連設している点で引用例と相違すると主張するが、本願考案の要旨は排気室6については、「水槽上に隔壁7を距てて設けた」としているのみであることに鑑みると、着脱自在に水槽1に連設することを構成要件とするものではないから、原告の右主張は、採用しうる限りではない。
また、前出甲第三号証によると、引用例の排気装置は、外筐1上に上蓋4を距てて空気出口24を有する排気通路22を設け、その内部に風車21を取り付けて、これを駆動源に連動しうるようにし、かつ、上蓋4に外筐1内に収納された薬液容濾過箱12内に通絡する通気孔5を開口させる構成であることが認められ、これに対し、本願考案の排気装置は、前出考案の要旨から明らかなように、水槽1上に隔壁7を距てて排気口10を有する排気室6を設け、その内部に排気フアン13を取り付けて、これを駆動源に連動しうるようにし、かつ、隔壁7に水槽1内に通絡する連通口8を開口する構成であるが、それぞれ、その構成によつて浄化された空気を外気中に排出する機能を営むものであつて、その作用効果にさしたる差異が生じるものとも認められないから、両者の構成は全く対応し、互に均等な構成であると見るのが相当であり、したがつて、その構成に相違があるとする原告の主張は採用することができない。
(薬液充填槽の構成について)
3 前出本願考案の要旨及び引用例の記載内容に、前出甲第二、第三号証を併せ考えると、空気を浄化するため薬液等に潜らせるのに使用される薬液充填槽は、引用例のものにおいては、上部を開口するとともに底板13に穿設した通気孔11の上側に管口を連設固定され、他端に水泡発生筐17を装着した倒立V字形管14を内部に蔵する薬液容濾過箱12であり、これに対し本願考案においては、上部を開口するとともに、一端を側壁から外気に開口し、他端を内部に開口する吸気管2を装着する水槽1であるが、いずれも前記のような作用を営むうえで、格別、差異はないことが認められるから、後記認定のように引用例における倒立V字形管14が外筐膨大部6と相まつて、本願考案における吸気管2の構成に均等な構成を具備することを踏まえて考えると、本願考案における水槽1の構成は、引用例における薬液容濾過箱12の構成と一致するといつて妨げがなく、したがつて、その構成に相違があるとする原告の主張は採用することができない。
(吸気管について)
4 本願考案において、吸気管2が水槽1に装置され、一端をその側壁から外気に開口し、他端をその内部に開口していることは、さきに認定したところであり、前出甲第二号証によれば、右吸気管2は、排気フアン13の駆動に伴い、空気を吸引して水槽1中の薬液等に潜らせる作用を営むことが認められ、これに対し、引用例において、倒立V字形管14が薬液容濾過箱12の内部に設けられ、その底板13に穿設した通気孔11の上側に管口を連設固定され、他端に水泡発生筐17を装着し、また、外筐膨大部6が外筐1の下室として通気孔3の穿設された区劃板2で上室と区劃され、その側壁に通気孔7を窄設し、空気を右通気孔7から吸引する点で、本願考案の吸気管2の一部に相当することは、さきに認定したところであり、前出甲第三号証によれば、倒立V字形管14の管口を連設固定している通気孔11は、外筐膨大部6を外筐1の上室から区劃する区劃板2に穿設された通気孔3に外ならないので、外筐膨大部6と倒立V字形管14とは、排気部の風車21の駆動に伴い、一体となつて本願考案の吸気管2と同様に、空気を吸引して薬液容濾過箱12中の薬液等に潜らせる作用を営むこと、なお、倒立V字形管14の先端の気泡発生筐17は、右濾過箱12に潜らせる空気を気泡化し、これによつてその浄化作用の効果を増大させるために設けられた、空気吸引作用に縁のない付加的装置であること、また、倒立V字形管14が作用において本願考案の吸気管2の一部と同一の営みをするものでありながら、特殊の形態に構成されたのは、さきに認定したよう各種の薬液による空気の濾過を各別に行うという特別の目的のため外筐膨大部6の上部に薬液容濾過箱12を数層重合する構成にしたことに由来するにすぎないことが認められる。してみると、空気を薬液中に吸引する装置において採用される前者の構成は、すべて後者の構成に具備され、これと均等に見るのが相当であり、したがつて、その構成に相違があるとする原告の主張は理由がない。
(薬液充填の方法等について)
5 本願考案に薬液の充填廃棄の容易さ及び価格の低廉という効果があることは、当事者間に争いがないが、さきに説示したように、本願考案は、その構成において引用例と異なり水槽1を一層とし、引用例にみられる外筐膨大部6を省略したものであり、本願考案の右のような効果も、右のように構成を簡略化したことに伴う当然の結果であつて、特別の考案によるものとは考えられないから、右効果があるからといつて、本願考案をもつて引用例から容易に考案できないものとすることはできない。
以上を綜合すると、本願考案は、引用例との対比上、その技術思想において格別進歩性を認め難いとした本件審決の判断には、なんら、誤りがあるとはいえない。
三 よつて、本件審決に原告主張の違法があるとして、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却する。
〔編註〕本件に関する図面は左のとおりである。
第一図面
<省略>
第二図面
<省略>